照明制御の仕事を45年続けてきて、いま一番多く相談されるのがこれです。
「既設の2線式(位相制御)調光システムのまま、シャンデリアをLED化したい。ところが絞ったときにチラつく。どうにかならないか」
ダウンライトのような単灯の器具なら、各メーカーが大きな平滑回路を組み込んだLED器具を苦労して作っており、なんとかなるケースも増えました。しかし本当に難しいのはシャンデリアです。小さな電球が一つの器具に何十灯も付いている。白熱電球の時代なら電球一個は何百円でした。それがLEDになると一個何千円。それでも同じ明るさを約1/10の電力で出せるのですから、LED化の要求は止まりません。
シャンデリアの電球は20W級の小型電球(中には40W級も)が主で、現在はLED 5W級クラスが主流です。5WのLEDでも20Wの白熱電球より全然明るい。問題は、電球と違ってLEDは正直だということです。ホテルの宴会場や式場で、ほんの小さな明かりだけを残す――常夜灯レベル、出力にして0.1%程度まで絞る場面があります。このとき電源のわずかなふらつきが、そのままチカチカという明滅になって現れます。本当はその領域では白熱電球でも揺らぎは出ます。しかし揺らがずに安定してほんのり点く状態を作ることは、AC100Vの位相制御では無理なのです。
机上では起きないことが、現場では起きます。
エレベーターが起動すれば電源電圧は揺れます。三相4線式で動力と照明が同居するような系統では、動力の影響をまともに受けます。最近の高圧キュービクルは電子機器だらけで力率も悪化し、電源波形は昔よりむしろ乱れています。位相制御は電源波形のゼロクロスを基準に「波形のどこで点弧するか」で明るさを決める方式ですから、電源波形が乱れれば点弧タイミングもばらつきます。
昔の人はここで苦労しました。電源が悪いと蛍光灯でさえ絞ったときにチラつく。だから大きな劇場では、キュービクルの段階で一般照明と舞台照明の系統を分けるのです。ところがホテルのボールルームなどでは、そこまでの作り込みをキュービクルからやりません。この経験の差が、必ずトラブルになるポイントです。単体の検査室でいくら安定していても、現場では他の電源の影響を受けるのですから。
深く絞った状態では、導通角はごくわずかです。そこにタイミングのばらつきが乗ると、微小な出力に対して相対的に巨大な変動になります。全光の状態なら誰も気づかないゆらぎが、0.1%の常夜灯では盛大なチラつきになる。これが原理です。隣の床屋さんのLED電球がチカチカする――そういう現場を、私は何十年も前から見てきました。
電子回路で点弧を遅延補正すればよい、という理屈もあります。しかし補正回路自体にばらつきが出ます。AC100Vの位相制御で0.1%の明かりを安定して出すことは、原理的に不可能だと私は考えています。
「調光対応」と書いてある安いLED電球を買ってきて、「大丈夫でした」と言う若手やメーカーが、いまだにいます。
たしかに調光は「可能」でしょう。しかし可能であることと、乱れた現場電源の下で0.1%まで安定して動くことは、まったく別の話です。安定動作を保証できる人は誰もいません。試験室のきれいな電源での確認は、現場の証明にはならないのです。
私は各メーカーの調光器・電球を実際に調査し、なぜダメなのかを記事にも書き、YouTubeでも発信してきました(関連資料参照)。それでも「その場でなんとかなるだろう」と安いものを買ってしまう。40年以上かけて何度も失敗した人間の「ダメだ」が、なかなか伝わらない。だからこの文書を残します。
十数年前から私たちが採ってきた方式は、位相制御を捨てることです。
構成は次の通りです。器具まではAC24Vで送り、器具内にブリッジ整流を入れてDC24V化します。ブリッジを入れるのは無極性にするためで、配線の極性を気にせず施工できます。点灯はDC24VのPWM調光とし、PWM周波数はちらつきが視認されない2kHz~4kHzに取ります。
そして、ここが一番難しいところですが、最小デューティ比1/4096から立ち上げます。
4096という数字の由来はこうです。通常の照明に来るDMX信号は8ビット、つまり256段階(0~255)しかありません。この各段階を16分割して、256×16=4096段階(12ビット相当)の内部分解能を持たせるのです。「そんな分解能は要らない」と皆言います。しかし要るのです。
LEDは白熱電球と違って立ち上がりが非常に早い。だからDMXバリューが1になった瞬間、いきなり点いたのでは綺麗になりません。1/4096のごく浅いデューティから、1、2、3、4…と刻み、やがて2個飛びのように間隔を広げていく――そういうカーブを作り込んで立ち上げます。DMX値1が来たら1/16刻みの階段でなめらかに繋ぐ。この256段階から4096段階への調光カーブ変換こそが、本当のノウハウです。
参考までに言えば、位相制御でここまでの分解能は不要です(やるとしても1/1000程度)。しかし位相制御で1/4096相当などと言ったら0V付近のほんのわずかな導通であり、そもそも安定しようがありません。実効値をある程度出したとしても、三相4線式の動力の影響を受けやすい場所では絶対にダメです。
この方式で、どのメーカーも実現できなかったLEDシャンデリアの深い調光を、私たちは1万灯以上の実績として積み上げてきました。一つの現場で1,000灯というボールルームや会場もあります。十数年続けて、もちろん当初は失敗もありました。しかしこれだけ多数の現場で安定している製品を生み出したのは、私たちしかいません。
「24Vで距離を引っ張るな」と一般の資料には書いてあります。しかし実際に計算してみれば分かります。
既存の100Vシャンデリアの改修では、既存電線をそのまま使うケースが一番多い。従来のシャンデリアは100Vで1,500W程度(最大でも2kW=20A)が多く、ホテルなどでは5.5sqクラスの太い電線が引かれています。LED化すれば電力は1/10、電圧は100V→24Vで1/4ですから、電流は4/10。つまり20A流れていたところが上限8A程度になります。電流容量はまったく問題になりません。
電圧降下も、100m引けば1割落ちることはあります。しかしLEDシャンデリアの最大光束が10~20%違っても人間にはほとんど分かりません。電圧降下が実害になったことは、ほぼありません。
本当の問題は逆で、太すぎる電線のインピーダンスと反射波です。 1/4096のごく細いヒゲ状のパルスが、反射でふらついてしまうのです。現場によっては1/2000が限界、1/1000が限界ということもあります。そのままではチラつくので、器具のDIPスイッチで最小デューティやカーブを現場調整できる対策を取り、カーブ設定を何種類も持たせています。なお昔は電波障害(AMラジオへの干渉)も気にしましたが、今はワイヤレスもデジタル化されてほぼ問題になりません。
放射ノイズと電圧降下を考えれば「器具の近くに」と皆言います。しかし天井工事が大変です。私たちは昔の調光盤があった場所に安定化電源を置き、AC24Vで引っ張ります。本当はDCで送ってもよいのですが、シャンデリアは極性がいい加減に配線されているものもあり、不点灯になると困る。だから器具側にブリッジ整流だけを入れて無極性にするのです。ブリッジの発熱は大したことはありません。
むしろ発熱するのはバラスト(電流制限)側です。ここに45年の結論があります。
普通、AC100VでLEDを点灯させる場合の電流制限は、コンデンサを入れる容量降下方式が簡単です。発熱も抑えられるので広く使われています。しかし、これをやった瞬間、1/4096のデューティでの点灯は不可能になります。C成分が入るとパルスがなまって電圧が落ち、LEDのVF(順方向降下電圧)の境界面でチラついてしまうのです。
24V系といっても、LEDのVFは直列構成でだいたい16~18V、物によっては22V近くまで点灯しないLED球もあります。つまり24Vマックスの系で、20V付近の電圧を持つ幅1/4096のヒゲを、なまらせずに安定して出さなければならない。これがものすごく難しい。パルス幅を狭めたとき何分の一まで安定して出せるかがすべてで、環境によってスタートが1/2000や1/1000になるのは仕方のないことです。
では電子回路(定電流回路や積分によるアクティブ制御)で解決できるか。できません。1/4096のパルスの実効値を取れば、24V系でもごくわずかな電圧・電力にしかならず、そこで半導体を安定動作させるのは効率的に不可能です。半導体は自分が動くための電力を必要としますが、その領域にはそれがない。
だから、純粋な抵抗によるバラストで電流制限するしかない――これが私の結論です。 ただの抵抗が一番安定します。その代わり抵抗は発熱しますから、放熱の付いた器具のアルミフレームへの取り付けが良いでしょう。フィラメント球型LEDは放熱がうまくできていないものが多く、これは現在設計中の課題です。
もう一つ、入れ替えで頻発するトラブルがあります。古いデジタルDMX卓は出力がカクカクと階段状に動きます。白熱電球ならフィラメントの熱慣性でふわっと点きふわっと消えるので誰も気づきませんでした。しかしLEDは応答が速い。古い卓でうまくいっていたシャンデリアをLEDに入れ替えた途端、フェードがカクカク見える――こういう現場が山ほどあります。
これに対して私たちは補正カーブを多数持ち、最近はAIも使ってカーブ生成ができるようになりました。立ち上がりのノリのいいフェーダー操作とうまく合わせるところまで追い込め、ほぼ無調整でどの卓でもなめらかに動くようになっています。CPUはARM 32ビットの安価なもので十分で、この価格帯でも2kHzのPWMとカーブ補正が余裕でこなせます。
低圧制御の難しさを、私は40年前に体で学びました。1980年代初頭、六本木プラザ4Fにあったディスコ「エル・コンドル」での話です。
天井に、バイク(あるいはトラクター)用の小さなビームヘッドライト球を何十個も並べる演出を作りました。柱がポンと立つような狭角のビームです。天井裏にトランスをずらりと並べるのは重くて大変なので、電球は昔のバイク用の6.3V。プラス側とマイナス側をマトリックスに配線して、縦×横で点灯制御する構成にしました。
マトリックスにすると、電流経路には行側と列側でトライアックが直列に2個入ります。多少の電圧降下は見込んで10Vぐらいのトランスにしたのですが、トライアック2個で5V近く落ち、出力は6Vあるかないか。さらに配線を引っ張ると、電球は点きませんでした。当然です。6Vの世界では30Wでも5A流れます。大電流に配線抵抗とデバイスの電圧降下が乗って、電球の手前では4Vぐらいまで落ちてしまう。低圧は電圧のマージンが最初からないのです。
結局、より高い12V系に組み直し、トランスも入れ替えて、オープンには何とか間に合わせました。今のパワーFETならON抵抗による降下はほとんどなく、両側で制御しても問題なくいけます。しかし当時のトライアックのVF降下は、低圧マトリックスにとって致命的でした。
低圧制御は「感電の危険がない」と安全なもののように言われますが、実体は大電流の世界です。 車のバッテリー周りでプラスとマイナスをショートさせれば電線はあっという間に燃えます。電圧降下・突入電流・接触抵抗、すべてが100Vの世界とは別の感覚で効いてきます。今、車やバイクのヘッドライトがLED化されていますが、電流制御の相性でウインカーが動かなくなるようなトラブルは現在でも起きています。
40年前の私にAIはいませんでした。今なら設計前にAIに相談すれば、この種の失敗は二度と起きないでしょう。だからこそ、こういう失敗の記録を残しておくことに意味があるのです。