最初の現場にはCPUが無かった。
1978年7月、『サタデー・ナイト・フィーバー』が日本公開された夏。私は20歳前後で、新宿・歌舞伎町のディスコ「シンデレラ」の光る床を作っていた。公開前の映画を試写で見せてもらい、「この点滅と同じにしろ」。徹夜だ。制御は全部ワイヤードロジック――だってCPUが無いんだから。点滅パターンは、四角が大きくなったり小さくなったりする図形。並んだスナップスイッチに、DJが穴を開けた型紙を何枚も被せ替えてパターンを切り替える。カードパンチの読み取り機みたいなものだ。あの頃の「プログラム」とは、そういう物だった。それでも、映画と同じ点滅で床が動いた瞬間の感激は、いまだに忘れられない。
当時の私は西口の工学院大学、二部の学生。現場が終わってから夜の授業に通っていた。大学の大型計算機ではFORTRANを回し、紙テープを読ませ、紫外線消去式のEPROMも触れた。ただしROMライターは何十万円もする時代で、先輩のいるコンピューター会社まで行って点滅パターンを焼いてもらい、それを1年後、点滅器に組み込んだ。卒論はTK-80――と言えば聞こえはいいが、電車の模型を動かすだけで、正直つまらなかった。こっちはもう、ディスコで照明をガンガン動かしていたのだから。CP/M――作ったのはビル・ゲイツではなくゲイリー・キルドールだ――が私の手元に来るのは、もう少し先の話。最初に触ったハンドヘルド、エプソンのHC-20(1982年)はOSすら無く、68系CPUにBASICが焼いてあった。CP/Mが載るのは次のHC-40からだ(この時期の制御の詳細はQiita「1983年・40年前のステージ電飾制御」で解説)。ビル・ゲイツとほぼ同じ時代を、日本の現場で生きてきた勘定になる。以来、サイリスタ調光、DMX512、Art-Net、LEDと、道具の進化を全部この手で通ってきた。
そして45年経った今、ハードウェアはプログラムできないと作れない時代になった。正直に言うと、一番つらいのはプログラムそのものではなく環境設定だった。Arduino IDEはバージョンが少し違うだけでエラーの山。原因はコードでなく環境。バージョンを合わせるのが人間の仕事だなんて、おかしいと思わないか。うちには「エラーが出て動かないままのガジェット」が何十年分も積み上がっていた。
AIが来て、それが全部動いた。最初はM5StickCに猫の顔を描いてもらった程度だった。動かなかったレゴのモーターが回った。C#のツールに3ヶ月かけていた私の横で、AIは同じ物を1日で作り直す。ペンディングの山が音を立てて崩れていった。
だから白状すると、私はAIに懐疑的だった側ではない。最初から大好きだった。苦手なことを全部引き受けてくれるのだから当たり前だ。もうすぐ70になる。生きててよかったと思う――何十年も棚で眠っていた物が、全部動いたのだから。
これは、その私がAI(Claude)と一週間、本気で組んでみた記録だ。宣伝ではない。良かったことも、駄目だったことも書く。
大げさに聞こえるかもしれないが、これに尽きる。
私は音声入力を使う。誤認識だらけだ。「位相制御」が「油槽船よ」になり、「Qiita」が「聞いた」になる。それでも話が通じる。文脈から汲んで、専門の話がそのまま進む。
45年間、現場で一番大事だったのは「話が通じる相棒」だった。それがまさか、機械相手に成立するとは思わなかった。
どれも一人と外注では数ヶ月コースだ。それが一週間、しかも自宅で回った。
AIは、確認せずに思い込みで走ることがある。
一番の実例: 調光カーブの実測計画で、AIは市販の8bitカメラで1/4096の調光レンジを測る前提で突き進もうとした。単発露出のダイナミックレンジを考えれば原理的に無理だ。私が指摘すると、計画は「実測」から「計測基準の確立とカメラ適性判定」に引き直された。指摘すれば直る。だが、指摘しなければそのまま行っていた。
もう一つ。AIは忘れる。セッションが切れれば、昨日の相棒は今日の新人だ。ただしこれは、指示書と申し送りを書かせることで解決した。要するに現場の引き継ぎと同じことをすればいい。
AIと組んで分かったのは、経験の使い道が変わることだ。手を動かす速さではもう敵わない。効くのは判断基準だ。
つまりAIは職人の代わりではなく、経験を初めてフルに使わせてくれる部下だ。ただし、判断基準のない者が使えば、思い込みごと加速する。そこは怖いところだと思う。
私は疑わなかった側の人間だが、だからこそ、疑っている同世代に言いたい。
45年やってきて、道具にこれほど驚いたのはDMX512以来だ。疑ってかかっていい。ただ、試しもせずに切り捨てるには惜しい。
この記事も、AIとの共同作業で書いた。聞き取りは向こうがやり、判断はこちらがした。それが答えみたいなものだ。
付記: 連載第1〜4回は技術編。本稿は協働記。「AIの道具箱」の中身――計測環境の作り方と実測結果は第6回としてQiitaで公開している(サイト版連載HTML化は近日予定)。