電源系統設計と安全設計の心得

― 感電・漏電・三相4線、そして劇場が系統を分ける理由 ―
照明制御45年(DMX512/ArtNet) tkurume | 技術解説 第3回(第1回:シャンデリア調光 / 第2回:調光カーブ設計)

1. 一番怖いのは火災、忘れられがちなのは感電

電気で一番困るのは火災です。ただし火災については、電流制限のブレーカーを必ず付けますから、ある程度は守られます。

忘れられがちなのが感電事故・漏電事故です。そしてこれが一番難しい。漏電は目に見えないからです。

2. 水中照明が教えてくれた漏電対策の神髄

私がこの怖さを叩き込まれたのは水中照明です。昔の輸入水中ランプは200Vでした。水の中にランプを入れるのですから、漏電対策は100%必要です。しかし100%は無理です。水は必ず入ります。漏電はするものなのです。

だから対策は多重にします。

第一に、漏電ブレーカー。 これは当然です。

第二に、アースから浮かせる(非接地)。 人間が水に触れたとき、電流が人体を通って地面に流れないように、水中ランプの回路は大地から絶縁して浮かせます。

第三に、本物の絶縁トランス。 ここが肝です。一次側はキュービクルから来ますから、必ずどちらかの線が接地されています。これを二次側で大地から切り離す。ただし普通のトランスではダメです。一次巻線と二次巻線を同芯に重ね巻きしたものは、絶縁が劣化すればそこが漏電の元になる。だから鉄芯は共通でも、一次巻線と二次巻線を物理的に離れた場所に巻いた、カットコアのような大型の絶縁トランスを使います。

第四に、地絡監視(絶縁監視)。 二次側を浮かせても、二次側の片線がどこかでアースに落ちれば、絶縁した意味がなくなります。それを検知するために、二次側が大地からどれだけ絶縁を保っているかを常時監視する地絡感知器を入れ、警報・遮断につなげます。プール用照明については、電気設備技術基準で細かく定められていました。

こういうことをきちんと知っている人は、本当に少なくなりました。

3. 先輩たちに教わったこと

私は40年前に水中照明の演出を行いました。アークヒルズの滝制御システム(1989年)。その前は韓国・ソウルの東邦生命ビルの音楽噴水、瀬戸内海放送の音楽噴水。先輩は中東の石油王のホテルのプールで水中ランプを施工していました。ウェットスーツを着ても暑くてどうしようもない、お湯の中で作業した――そんな話を聞きながら、感電事故がどれほど恐ろしいかを、先輩方から資料とともにきちんと教えていただきました。設計するときに必要なのは、この辺りの肝なのです。

4. 「低圧だから安全」の嘘

さて、今はどうでしょう。照明はすべてLEDに代わり、24Vの低圧ランプを水中に入れています。だから安全でしょうか。

いいえ、違います。 地絡感知の機能が付いていればよいですが、そんな機能もない水回りはいくらでもあります。

身近な例を挙げます。絶縁がまともに取れていない安価な充電器を100Vコンセントにつなぎ、そのスマホを使いながら風呂に入る。ありえないことですが、実際に感電で亡くなる事故が繰り返し起きています。モバイルバッテリーからの充電なら(大地から浮いているので)まだよい。しかし100Vにつながったままの入浴は自殺行為です。知らないからやってしまうのです。

音響機器も同じです。音響の世界は絶縁に対する認識が甘い。地震で音響機器がプールにポンと落ちれば、そのまま感電事故です。私の知っている音響屋さんは、そこまで考えて音響機材にも絶縁トランスを入れてから接続するよう指導しています。しかし、そういう記事をWebで探してみてください。非常に少ない。だから私はQiitaに書きました:「プール、浴槽などでの感電事故対策」

なお、今は漏電ブレーカーの性能が良くなったので、普通のプールは漏電ブレーカーだけで済ませるところが多い。遮断は確かに効きます。しかし、本当にそれだけでいいのか――私は疑問に思っています。

5. 三相4線式と位相制御ノイズ ― 60度ごとに乗る歪み

ここから電源系統の本題です。

キュービクルから三相4線式で受けている建物で、動力と照明が同居している。そもそも三相4線式を知らない人が増えました。単相三線しか知らない。自分の照明が動力系で動いていることすら知らない。

単相三線は180度の位相関係です。三相4線式は各相が120度ずつずれた電流が流れます。そしてACは1サイクルにゼロクロスが2回ある。つまり120度ずれの逆側、60度ずれた位置にもノイズが乗るのです。三相4線のそれぞれの相で位相制御をかければ、他の相の波形の60度ごとの位置に大きな歪みが入ります。

この歪みで照明器具は誤動作します。チカチカする、ランプなら明るさが大きく変わる、蛍光灯ならパカパカする。半導体はこの急峻な歪み――いわゆるdv/dtで誤点弧・誤動作するのです。

これをすべて知った上で、もう一度問います。「位相制御でLED、本当に大丈夫ですか?」

昨年あたりから蛍光灯の製造もなくなり、間接照明の直管40WなどをLEDに置き換える案件が増えています。「位相制御で調光できます」と書いてあるLEDもあります。調光は確かにできる。できる時もある。しかし不具合が出る可能性が十分あることを、誰も表立って大きくは言いません。安価だからと採用してホテルで使ったら、大変なことになります。位相制御の間接照明LEDでフェードアウトを揃えて綺麗に出すこと、10%程度で止めることは、まず不可能だと思ってください。たまたま動いているだけです。 3割程度まで絞ったらカットしてしまう使い方ならまだよい。それ以上は保証のない世界です。

6. 劇場はなぜ系統を分けるのか

劇場を見てください。客席の照明はゆっくり暗くなって、静かに安定して絞られていきます。一方、舞台のスポットライトはパッとガンガン点く。この二つが同じ電源系統にいたら、スポットが点くたびに客席側がチラつきます。

だから劇場は別系統配線なのです。キュービクルを分ける。少なくとも高圧から100V/200Vに落とすトランスから分ける。最悪トランスを分けられなくても、主幹(225Aフレームが多く、大きければ250A・300Aクラス)の段階から電線を分岐して距離を取る。単相ならまだしも、三相4線では各相に位相制御の歪みが乗り合うのですから、なおさらです。

ところが今、ホテルのボールルームなどでは、そこまでの作り込みをキュービクルからやりません(第1回参照)。ここが経験の差であり、必ずトラブルになるポイントです。

7. 保守の現実 ― 1日1回のチラつきを直すということ

最後に、保守の話をします。

結婚式の演出で、シャンデリアを小さく絞っている。そのとき1時間に1回だけフリッカーが出る。ダウンライトを暗くした状態で、1日に1回だけあおる。――それでも直す必要があります。私たちは床に転がって、天井を半日眺め続けることだってあるのです。

「そこまでやって大丈夫ですか」と問われて、大丈夫ですと言える人は、ほとんどいないと思います。だからこそ、電源系統の設計を最初から正しくやることが、後のすべてを楽にするのです。

8. まとめ