私の調光器は調光カーブを何種類も持っています。なぜそんなに要るのか。理由は現場にあります。
ホールや宴会場の照明回路を思い出してください。シャンデリアの周りには間接照明があり、折込(コーブ)の中にはダウンライトが入り、壁にはブラケットが並びます。そして間接照明とシャンデリアが同じ調光枠に入っていることがよくあるのです。
白熱電球の時代は、これでも問題ありませんでした。どの電球もフィラメントですから、特性がだいたい揃っていた。ところが全部LED化が進んだ今、マスターフェーダーを下げると間接照明が先にストンと消えて、シャンデリアだけが後まで残る。あるいはシャンデリア球も形状違いが何種類か混ざっていて、LED球ごとにカーブも明るさも違うから、消えていく途中でバラバラになる。
同じ回路に入ってしまっているものは、器具側で合わせるしかありません。しかしカーブの種類まで持っている照明器具は、ほとんど見たことがない。ましてシャンデリア球単体では不可能です。だから私たちは、シャンデリア球のカーブを、周りの間接照明や蛍光灯の消え方に寄せるという作業をやります。
さらに卓側の事情も絡みます。調光卓のフェーダーカーブも直線カーブ、Sカーブといろいろ設定できますから、オペレーターや照明デザイナーの要求に応えるには、器具側はどのカーブで来られても破綻しない細かさを持っていなければならない。
この「合わせ込み」をやろうとすると、DMXの1チャンネル・256段階では話になりません。
ムービングライトの回路を見てください。RGBに加えてホワイト、ウォームホワイト、クールホワイトがあり、それぞれが16ビットを持っています。通常の256段階(コース)の下に、さらに256分解のファインモードがある。つまりフル16ビット=65,536階調です。ムービングでは当たり前にやっていることです。
LEDの調光も、カーブまで本気で気にするなら最低12ビット(4096段階)のカーブ補正データが必要です。できれば16ビット。そして本当の問題はここからで、卓から来る256段階の直線的な値に対して、この12ビットをどう割り付けて補正するか。これが設計のすべてです。
第1回「LEDシャンデリアの調光はなぜ難しいのか」で書いたとおり、256×16分割=4096が私たちの基本構成です。最小デューティ1/4096からの立ち上げについては第1回の第4章を参照してください。
カーブは上りと下りで違います。
白熱電球はフィラメントに熱があるので、消すときも冷めるまでの間、最後ふわっと残って消えます。LEDはカチッと消える。この「カチッ」が舞台では致命的です。ふわっと感を出すには、立ち上がりにも立ち下がりにも遅延を持たせ、しかも上りと下りでカーブを変える必要があります。
難しいのは、これがフェーダー操作の「ノリ」と両立しなければならないことです。カットアウトでパッと消すときは即座に応答する。ゆっくり上げたときはゆっくり滑らかに。そしてゆっくり下げて、最後の消える瞬間まで一切カクつかせずに消す――これが一番難しい。
実装の話をします。使うのはARM 32ビット、チップ単価100円にも満たないCPUです。これで10チャンネルの調光基板を作ります。
現場の10回路の中には、シャンデリア球系、間接照明系、パンライト系と、性格の違う器具が混ざります。だからこの1個の安価なチップの中に、器具別に3種類の16ビットカーブを持たせ、それぞれに「いくつから点き出すか」の遅延ポイントと、立ち上がり・立ち下がりのカーブを個別に設定します。安価なARMでも2kHzのPWMとこのカーブ補正が余裕でこなせる。ハードのコストはもう障害ではないのです。
設定側も進化しました。単価の安いESP32-S3を使えばWiFiのアクセスポイントが立てられるので、現場でスマホやパソコンのブラウザから調光カーブや色の設定まで簡単にできます(実例はSW8特設ページやカレンダータイマー調光を参照)。カーブをROMに焼き直す時代は終わりました。
では、そのカーブデータを誰がどう作るのか。
この十年ほど、私は自分で苦労してカーブを作ってきました。Excelのマクロでカーブを描き、配列データに変換してCSVに出力し、そのCSVテキストをソースに取り込む。面倒でしたが、それでも昔に比べれば天国です。1本ずつ、現場の見た目で追い込む。カーブは数式では決まりません。見た目でしか合わせようがないからです。
それがこの1年で一変しました。今はすべてAIに任せています。器具ごとのカーブ生成、点き出し遅延、上り下りのカーブ計算――いろいろなことを想定して、AIが全部やってくれます。
そして、ここ数週間でさらに進みました。AIは動画をなかなか見てくれないので、連続コマ撮影をするカメラアプリを作りました(このツール自体もすべてAIに作ってもらったものです)。パソコンにカメラをつなぎ、ARMのファームウェアを動かしながら、AIがコマ画像で実際の光り方を確認してカーブを補正する。人間とAIが同じ映像を見ながらファームウェアを開発するための、目と手足のループです。「見た目でしか合わせられない」ものを、AIの目で合わせる。これでカーブの実現度が大きく上がりました。
強調しておきたいことがあります。
ハードウェア技術者にとって一番面倒だった、プログラムの詳細で地味な部分――カーブテーブルの生成、補正計算、データ変換――を、今はAIが開発してくれます。本当に素晴らしい進化です。すべてのAIに頑張ってもらって、最高の製品を安価に作ることができる。
AIとの協働は、この文書のようなドキュメントだけの話ではありません。当サイトのSW8特設ページを見てください。AIに3D CADで起こしてもらってプリントしたケース、AIと一緒に設計した基板、それをパナソニックの標準パネルに収めた製品を、3Dの立体組立図で紹介しています。画面上でスイッチを押せば色が変わり、指示ランプの位置も変わり、エンコーダーのつまみを回せば液晶表示のシミュレーションまで動く。ホームページそのものがAIとの共同作品です。
私は普通ならとっくにリタイアしている年齢です。その歳で、45年の経験を土台に、こんなに素晴らしい開発を進められる。なんて素晴らしい世界でしょう。
超ベテランの経験と、AIの実装力。この組み合わせがいま一番強い。それを同世代の技術者と、これからの若手の両方に伝えたい。それがこの文書の結びの言葉です。